Facebookはこちら

東京をアジアの金融ハブへ 番外編(ロシアにタックスヘイブン?)

金融都市東京

こんにちは。香港在住弁護士のマイクです。

さて、今回は気になる話題を一つ。

7月23日、プーチン大統領が「前例のない提案するんで、乞うご期待!と意味ありげな発表をしました。そして東京オリンピック開催期間中の7月26日、ミシュスチン首相が北方領土の択捉島を訪問して、いきなり宣言しました

「北方領土をタックスヘイブンにします!」

これは事件です!

日本は猛烈に抗議。そもそも主権がロシアにあることを前提にした提案なんて認められない、四島返還に向けて引き続き協議を続けていく、と。

しかし、ロシアは日本との間に国境に関する紛争は存在しないという立場を貫いています。だから、返還だ、主権だなんていう話はする意味ないからさっさと経済協力の話をしようよ、これなら日本も気にいる提案だと思うよ、というところです。

北方領土がタックスヘイブンなんてあり得るの?

あり得ます
ロシアは税制の優遇措置だけでなく金融システムを整備し、資金を預けやすくするでしょう。するとロシアやロシアと仲が良い中国の富裕層がそこに資金を移動させます。最初は懐疑的な他の国の富裕層もロシアや中国の富裕層の動きを見て次第に資金の受け入れ先として機能することを認め資金を移動し始めます。
ついに資本主義国側からもタックスヘイブンとして認知され極東のケイマンになります。
最初は絶対に認めないと頑張っていた日本も、経済的にもビジネス的にも無視できなくなり、タックスヘイブンとしての北方領土の利用を検討し始めます。ロシアからは、地理的優位性や歴史的背景を考慮した日本企業や日本人に対する優遇措置を内容とする日露協定が提案されます。もう詰みです。利用しない理由がありません。
最終的に北方領土がケイマンに代わる日本のアセットマネジメントビジネスの拠点になります。
そして北方領土返還に関する議論は完全に葬りさられ、平和条約締結の交渉となります。

そんなの無理でしょ?

ロシアは社会主義国でいつ急に規制が変わるかわからないんだから怖くて資金なんておけないよ、情報だって漏れるだろうし。

ロシア「ご安心ください。我々は一国二制度を採用して北方領土をロシアの特別行政区にします。」
日本「あの、中国が香港に使っているやつですか?」
ロシア「はい。一党独裁の中国で成功しているあの制度に倣って北方領土を香港のような自由で開かれた地域にします。香港の成功をあなた方も見てますよね。」
日本「・・・」

今、世界情勢は劇的に変わりつつあります。中国は世界の覇権国になるのか、米中戦争は起こるのか、インドは世界の大国になるのか、イギリスが抜けた後もEUは存続するのか、気候変動は世界をどのように変えるのか、資本主義は終焉を迎えているのか、予想が困難なことばかりです。今現在もつい最近まで予想もしなかったことがいくつも起きてます。ここ香港でも。
なのでこのロシアの提案もまんざら荒唐無稽のものではないのかも。先に、「沖縄をタックスヘイブンに」と提案したけど、案外ここが先に現実的なタックスヘイブンになるかもしれません。知らんけど。

ところで、今回の提案ですが、これ、満を持して出してきましたね。実はずっと前からロシアが暖めていた構想なんです。

話は2013年に遡ります。その前から始まっていたギリシャの金融危機の煽りを喰らって地中海の島国キプロスが深刻な財政難に陥り、その年ついにいわゆるキプロスショックが起こりました。キプロスはEU加盟国なのでこれは何とかしなきゃとEUが金融支援に乗り出したのだけれど、その条件が

「銀行預金者に預金額の7〜10%の税金をかける。」

というもの。当然国民慌てますね。そりゃ税金かけられる前に預金下ろさなきゃと国民はATMに殺到。政府は預金封鎖令を出してこれに対抗。めちゃくちゃです。すったもんだの末、結局高額預金者のみに課税することで何とか決着しました。

それ、ロシアと関係あるの?

大ありです。
当時、ロシアの富裕層はその多くがタックスヘイブンであるキプロスに資金を移して運用していました。地理的に近いし。その結果、キプロスは国の経済規模に比べて銀行預金高が異常に大きくなり、その大半はロシア人の富裕層のものでした。つまり、EUがキプロスに金融支援をするとその大半がロシア人富裕層に流れる結果となってしまう。そんなことは世間が許さない、そんな背景からでした。なので、解決案は高額預金者であるロシア人を狙って税金がかかるようにしたのです。

これにはロシアも苦々しく思ったはずです。富裕層にはきっとロシアの高官もいましたから。キプロスは富裕層の資金逃避先としては不安定だ。それならいっそのことロシア国内にタックスヘイブンを作ってしまえ。場所はマン島やジャージー島のように国の端っこにある島がいい。日本が何かとイチャモンつけてくる極東の島がぴったりじゃないか?時期を見て仕掛けよう。
こうしてプーチンさんが大統領に返り咲いた翌年の2013年、交代で首相となったメドベージェフさんが北方領土にタックスヘイブンを作ることを検討するよう政府に提案しています。

2013年といえば、第二次安倍内閣が発足したばかりの時。外交好きの安倍さんは北方領土問題を解決すべく在任中27回もプーチン大統領と首脳会談しました。しかしロシアは、国境に関する紛争は存在しないという姿勢を崩してませんから、交渉は常に平行線です。しかもご丁寧に国土の割譲を禁止するよう憲法まで改正してしまった。いつまでも領土問題を蒸し返してくる安倍さんに対するプーチンさんの「王手」ですね。

菅さんはもう諦めたのか、就任以来一回だけプーチン大統領と電話会議をしただけで、北方領土問題の議論はなされてません。

そのタイミングで出してきた今回の北方領土タックスヘイブン提案。日本はもう北方領土問題は諦めたようだけど、それを面と向かって国民に言えないよね。ならば国民向けに美味しい提案をするからこれで国内まとめてよ。
なかなかやるね、プーチンさん。

北方領土問題が日本の金融ビジネスに深く関係してくる様相を呈してきて、目が離せなくなりました。

 ← |→ 次