Facebookはこちら

時々雑感 ESG投資のジレンマ

雑感

こんにちは。香港在住弁護士のマイクです。

Mパワー・パートナーズ・ファンドをご存知ですか?
元ゴールドマン・サックスのキャシー松井さんと、彼女の女史仲間3人で、今年前半に立ち上げたベンチャー・キャピタル・ファンドです。このファンド、注目されている点は多々あるのですが、その中でも楽しみなのはベンチャー・キャピタルで初めてのESG投資ファンドというところです。

先日、テレ東の「モーサテ」でこのファンドが特集され、キャシーさんが生出演されてました(テレ東BIZのアプリで後からネットで見たので生ではないですが)。タイムリーな特集で思わず膝乗り出して見入ってしまったのですが、キャシーさん曰く、ESGを企業の主要な経営針に据えるのは、大手上場企業ではなかなか難しい。なので、未成熟なベンチャー企業に投資を通じてESGを根付かせたい。
素晴らしい!

ここで豊島キャスターがズバッと切り込みます。

豊「ESG投資とリターンを出すことは両立するんですか?」

キャ「ESGがより高いリターンを出すことが証明されています。そこはトレードオフではなく両立します。」

この答え、正しく理解する必要があります。

そもそもESG投資とは。

ESGっていう言葉をちらほら日本でも聞くようになったのは2010年頃からです。
TKGもその頃からでした。関係ないけど。

ESGは、投資家目線で提唱された考え方です。投資家は、投資収益ばかりを求めるのではなく、投資先企業のESGの取り組みも投資判断に加え、社会的に責任ある投資をすべきだと。当初は会社のボランティア活動と思われていたCSRと同視されて見向きもされなかったESGですが、次第に企業の長期的な業績向上に不可欠な要素ということが理解されてきました。企業が利益だけを追求して環境破壊に無頓着だったり、過酷な労働条件でコストを削減していると、短期的には利益が上がってもいずれそのしっぺ返しを食らって衰退する。しかし、環境にも従業員にも顧客にも優しい会社は、社会から支持され繁栄し、結果企業価値も向上する。ESG投資をすることで長期的かつ継続的に株主、従業員、顧客、地域社会がウィン・ウインの関係になる。

全く正しい。

ここで出てきたのが、ESG投資信託やESGファンド。企業価値の向上が見込めるのであればそこに投資するための仕組みを作ろうというのは世の常識。そもそも一般の投資家にとってどの企業がどのくらいESGに取り組んでいるかを分析・評価するのはほぼ不可能なので、それをプロに任せて投資先を決めることは合理的でしょう。

これも全く正しい。

コロナ禍で社会環境への関心が高まったこともあり、ESG関連投信、ファンドが人気のようです。さまざまの金融機関が競ってESG投資商品を販売し、その各年度のリターンを他のファンドと比較し、高パフォーマンス自慢をしたり、意外とリターンは低いと自嘲したりしています。

ちょっと待った!

ESG投資は、全てのステークホルダーに配慮した投資です。
それを株主へのリターンだけで評価するのは矛盾してないか?
もちろん、株主も利益を追求し、得ます。寄付してるのではないので。でも、株主が資金を出し、従業員が労働力を提供し、顧客が企業売り上げに貢献し、地域社会が企業存続の基礎を与えている、これら全員の共存と相互作用によって初めて企業が収益を上げているのだから、その利益は株主の総取りではなく、従業員、顧客、地域社会で公平に分け合うもの、それがESG投資の源流です。
株主は、短期リターンはそこそこだけれど10年、20年と長期の安定したリターンを期待して投資しましょうとなります。

であれば、単年度リターンやROE、配当性向などの指標を毎年比較することは無意味で、これらを自慢げに示しているESGファンドは本物か?と疑ってしまいます。

ESG投資はこれからも増えていきます。ただ、ファンドや投信に一般投資家が入ってきたときに、金融機関はこれら投資家に正確に説明して、決して短期リターンを求める投資ではないことを理解させ、健全な投資を促すことが肝要です。安易に何か流行りで儲かりそうだと考えている投資家やそんな投資家に迎合して短期リターンの高さを売りにするようなエセESGファンドが出てきたら速やかに退場してもらいましょう。

さて、先の豊島キャスターへのキャシーさんの答え。

詳しく説明はなかったけれど、「長期的に見て安定したリターンを出す」という意味で言ったのだと思います。ファンド出資者もそこを理解していて年度ごとのリターンには興味ないはずです。

Mパワー・パートナーズ・ファンド、期待してます!

←|→ 次