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明るい香港(4)

明るい香港

こんにちは。香港在住弁護士のマイクです。

ちょっとマニアックですが、今回は前回のブログでも少し触れたリミテッド・パートナーシップ・ファンド(LPF)制について書きます。前回最後に書いたら、反応大きかったし、ここ、本業なんで。

この制度、日本ではあまり大きく取り上げられていませんが、日本やアジアでファンドビジネスを行う者にとっては大事件です。

国安法を制定して香港のコントロールを手に入れた中国は、香港の国際金融都市としての機能も一層強大にするために次々と手を打ってきています。

香港、がんがん攻めてきてるぞ。

でも、その前に。

そもそもファンドはどういう仕組みなの?

まずケイマン諸島リミテッド・パートナーシップ(LP)を作ります。
本当はタックス・ヘイブンならどこでもいいんですが、ケイマンが過去実績も多くあって慣れているので日本や香港でファンドと言ったらまずケイマンです。

次に、資産運用会社(ファンドマネージャー)を香港に設置します。
これもどこでもいいんですが、ファンドマネージャーは法規制や税制の観点から最も効率的に業務を行える国を選びます。ここ香港が最も力を入れてきているところで、アジアでの覇権をシンガポール(東京ではない)と激しく争っています。

これで投資のためのファンドスキームの大枠は完成です。
あとはどこの国の資産に投資するかです。例えば日本の会社(株式)の場合には、ファンドがケイマン、ファンドマネージャーが香港、投資対象が日本株式と三つの国の法規制や税制を検討した上で、最終的なスキームを決定します。

ただし、どんなに頑張って素晴らしいスキームを組んでも完全なものはできません。

それぞれの国にはそれぞれの国の事情で税制や法規制があるので、いくつかの国を跨いだスキームはどうしてもどこか業法や税務で不確実なところや不合理なところが出てきてしまいます。日本で買った電気製品を変圧器とプラグアダプターくっつけて香港でなんとか使っているようなものです。

例えばプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)の場合、ファンドマネージャーが香港だと投資収益が事業収益とされてファンドに香港法人税がかかってしまうかもしれないというので、調印だけ香港から出てフェリーでマカオに行く、なんていう都市伝説(?)もありました。

そのほか色々、色々。。。

この不確実、不合理な点の最も大きな原因はファンドが香港にないからです。

そこで出てきたのがLPF制度

国安法が施行されたのが、2020年6月30日。
LPF制度が制定されたのが、2020年8月31日。

偶然とは思えません。
中国が香港を完全にコントロール下に置いた時期を待ってこの制度を作り、香港のファンドビジネスに梃入れをしてGBAと中国本土の経済発展を牽引していく、そんな意気込みが見えます。素早い動きです。

香港にファンドを作るのはそんなにすごいことなの?

すごいことなんです。

香港で設立されたファンドであれば、香港当局はそのファンドを監督下に置けます。監督下のファンドとファンドマネージャーであれば、業務ライセンスの適用や税務の扱いもファンド全体で明確に規定できます。実際、そうなりました。

LPF制度で作ったファンドは一定のルールの下、収益が非課税とされました。もう、マカオに行く心配はありません。

前回触れたキャリードインタレストが非課税というのもLPF制度が前提になります。

なんと言っても実務的には、ファンドもファンドマネージャーも香港ですから、設立からその運営、維持に関して時間もコストも大幅に節約でき、また簡単になります。

それと、最後にこれ全然話題になっていないけど、

日本のファンドにLPFを使うと25/5%ルールの適用がないんです。

以前、ケイマンファンドを使ったファンドビジネスを行う上で25/5%ルールというのがあって、この法改正で幻滅した話しました。このルール、国際間の課税の話なんでもちろん租税条約が前提になります。

日本香港租税条約では、このルールの規定がないので原則通り居住地国課税、つまり、香港のファンドがいくら日本の株式を売ったとしても、日本では一切課税されず、しかも香港では譲渡益課税はないので結局非課税です。

以前沖縄をタックスヘイブンにしようって提言したけど、このLPFを念頭にこれに対抗するにはそれしかないと思っていました。やっぱり追いつけないかな。

日本のPEファンドも今後は香港のLPF使うことを検討する時期にきましたね。

ではまた次回。

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