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東京をアジアの金融ハブへ(4)

金融都市東京

法規制 日本の悲しい現実

こんにちは。香港在住弁護士のマイクです。

香港でも日本でも、金融業を行うにはそれなりの法規制があります。そもそも30年ほど弁護士やっているうち最初の10年を法律事務所で国際取引や金融案件、次の10年を外資系証券会社でファンドビジネス、最後にプライベート・エクイティ・ファンドでやっぱりファンドビジネスと、20年以上もファンドビジネスに携わってきました。証券会社で働いているときはその重要拠点であるニューヨーク、ロンドン、香港に出張するたびにその法務部のメンバーに当地の法規制について聞いていました。またPEファンドの後半5年は実際に香港で稼働して香港の法制度を肌で実感しました。で、悟ったことは、

日本の各省庁には産業育成のために個々の省庁の省益を超えて法制度を建設的に運用するという発想はない。

という事実です。少し古い話になりますが、それを痛感した例を二つ。

「合同会社は法人です。」事件

1990年代後半、米国デラウェア州やケイマン諸島などでLLC(リミッテッド・ライアビリティ・カンパニー)という法主体が新設され、活発に利用されるようになりました。これはざっくりいうと、法律行為の際には法人として人格が認められる一方、税務では組合としてLLCレベルでは課税がないという実に便利な仕組みです。そのため、ファンドの投資主体として非常に重宝され、それによるファンド事業が大いに発展しました。丁度その頃留学していた米国のロースクールの商法の授業で教授が「LLCのCはコーポレーションじゃなくてカンパニーのCだ。いいか、か・ん・ぱ・にーだぞ。間違えるな。」と強調していたのを覚えています。当然日本でも同様の仕組みを作ろうと当時の通産省が主導して商法を改正し、日本版LLCと言われる合同会社という新たな法主体を創設しました。これにより契約や登記、裁判でLLCの名前で行為できることになり、あとは税務上組合として扱われるということになればと、当時ファンドビジネスに携わっていた全ての人たちから大きな期待が集まっていました。そこに出た国税からの見解は「合同会社は法人なので法人税が課税されます、マル」の一言。ビジネスサイドからは当然「えー!!」の大合唱と落胆のため息。長い間時間と労力を費やしてこぎつけた日本版LLCはこの瞬間株式会社より簡単に設立できる程度の存在価値しかない仕組みになってしまいました。それまでの有限会社の仕組みを廃止してまでつくる意味もないものでした。

「GPの運営に一切関与しなければ認めます」事件

海外投資家が日本法人に投資した場合に俗に「25%5%ルール」という規制があります。これもざっくりいうと、日本法人の株式を25%を超えて保有する外国(法)人が一定期間保有後5%を超えてその株式を売却するとその売却益に日本で課税するというものです。経営破綻して誰も助けられなかった長銀にリスクを冒して投資したリップルウッドが、その後新生銀行として再生に成功し多額のリターンを得た際に日本で課税できなかったことをときの政治家が怒り、導入された制度です。で、複数の外国投資家がファンドを組成して日本法人に投資する際には、ファンドを一つの投資主体と見るため、このルールが現実の問題として立ちはだかります。投資家一人一人を見れば25%までにはいかないため、投資家目線で言えば理不尽なルールになります。2010年頃、その問題を解消するために一定の条件を満たせばファンドではなく個々の投資家レベルで判定するように再び経産省主導で法令改正がなされました。要は、ファンドに対してパッシブな投資家、すなわちファンド運営に関わっていない投資家ならば、投資家レベルで判断するというものでした。これで海外投資家が日本に投資しやすくなると大いに期待され、国税のガイドラインを待ちました。で、出てきたガイドラインは「GPのファンド運営に一切関与しなければ認めます。組合員総会で一票でも持っている場合は認めません。」というものでした。グローバルレベルで標準となっているLP契約は、LPが投資判断や日々の運営に口出す権利はありませんが、例えばGPの契約違反等による解任や、LPへの利益配分の変更等の基本的な権利に関しては組合総会でLPの決議により決定するとしています。国税のガイドラインはこの議決権さえも否定したもので、到底、グローバルスタンダートに受け入れられるものではありません。結局、ルール改正は実効性のないものになってしまいました。

ここで例に挙げた二つの事件も、国税と経産省その他の関係省庁に、日本への投資ビジネスを発展させるために法制度を改正するという共通の目的意識があればこんなことにはならなかったはずです。似たような事例は細かな点も含めればたくさんありその度に失望してきました。

でも、香港は違ったんです。それは次回に話しましょう。