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時々雑感 日米首脳会談 ルビコン川を渡った?

雑感

「台湾を守る」だなんて菅総理、日本は言ってしまっていいの?

こんにちは。香港在住弁護士のマイクです。

米国現地時間16日に菅総理が慌ただしく訪米し、その日のうちに日米首脳会談、共同声明文の発表がなされました。18日には菅総理もう日本に戻ってました。夕食会もなし。モーレツビジネスマン(これも昭和の言い方かな?)がNYあたりに弾丸出張しているみたいで、後期高齢者入りも近い菅総理体は大丈夫なのかなと思わず心配してしまいます。バイデンさんはさっさと自宅に帰って週末を過ごしていた様ですし。

今回の訪米と共同声明、突っ込みたいところたくさんあるのですがその中でも一番つっっこみたい「台湾」について書いてみます。

まず最初に断っておきますが、台湾は日本にとってとても大事な「国」です。東北大震災の時に真っ先に援助してくれたことも忘れてません。台湾海峡の平和と安定には何ら異論はありません。それを大前提に。

それから、念のためにざっくり整理しておくと、中国は中華人民共和国、台湾は中華民国。ただし、中国は台湾を中国の一部としていて独立国として認めてません。国際的にも台湾を独立国として承認しているのは現在15国でそのほとんどが中米や太平洋にある小国。しかもこの5年で7国も減ってます。それだけ中国が積極的な外交で勢力範囲を広げているということでしょう。2017年に台湾と国交断絶したパナマの駐日大使と以前話す機会があったので聞いてみたら、中国と国交を開始した途端、中国からものすごい援助を受け始めたと言ってました。日本もアメリカも台湾とは国交を断絶してます。

今回のアメリカ訪問。例えるならバイデン兄貴に事務所に呼び出されて「今まで俺たちがこのシマ仕切ってきたのに最近隣町の奴らが勢力つけてきて横取りしようとしているの知ってるよな。このままだといずれ衝突しそうだ。その時は俺たちに一生ついて行きますって一筆書いて隣町の奴らにも宣言しろや。」と言われてできたのが今回の共同声明。

日本はルビコン川を渡った?

戦後から現在に至るまで、世界はアメリカを中心に回ってます。世界の警察と言われGDPも世界トップです。しかしここにきて俄に雲行きが怪しくなってきました。まずアメリカが自国第一主義に方向転換して世界の警察を辞めようとしてます。トランプ大統領が「Make America Great Again」のスローガンを抱えて4年間アメリカのトップに君臨したことで更に加速しました。一方、中国は急速に経済力をつけてきて数年後にはGDPでアメリカを抜くとみられます。当然、アメリカに代わってこれから世界を牛耳るのは中国だと言わんばかりにその経済力に物を言わせて時に強引に親中派の国を増やしてます。

香港も強引に中国に引き込まれました。ほんの少し前、少なくとも2019年前半までは香港では人々が自由にその主張を香港政府にぶつけていました。デモ隊と警察との小競り合いはありましたがそれは民主国家の許容範囲です。200万人が整然と行進して政府にその主張を訴える、とても紳士的なデモでした。状況が変わってきたのは、政府が武力行使してでも抗議活動を鎮圧するという態度を明確にした2019年後半あたりからです。衝突は次第に過激になり、最後は多くの学生が香港理工大学に立て篭もり、まるで安田講堂事件の再現のような闘争の後、学生の投降で収束しました。その後偶然コロナのためデモが禁止され人々も外出を控えているうちにいつの間にか国安法が成立し、香港は言論的、政治的には完全に中国に支配されました。

良し悪しは別にして、香港は今平穏です。しかし、闘争が最も緊迫していた2019年後半、香港人はアメリカや日本などの民主主義国家に香港人の支持と援助を求め、中国は香港国境に軍隊を待機させていつでも香港に武力介入する姿勢を示していました。香港が中国とアメリカの代理戦争の舞台になるかもしれないと本気で考えていた時期です。

中国にとっては離れて暮らす可愛い子供二人(香港と台湾)が、最近どうも自分と反りが合わない悪い奴らに影響されて家を出たいと言っているので、まずは近い方の子供(香港)を殴って自分の家に引き戻し、親の監視下の元で暮らす様に仕向けたところです。反りの合わない奴らは遠くからワーワー騒ぎましたが、無視したらおとなしくなりました。

そうなると次は台湾です。台湾もずっと家を出たいと思っているのに親が認めません。これまでは遠くで暮らしていれば自由にさせてもらえるからそれでもいいかと思っていたのに、香港のようにいつかは殴られて親に連れ戻されることもわかりました。親は親で、これまではどうしようか扱いあぐねてたのですが、殴って連れ戻せば何とかなることもわかりました。なので、あまりに言うことを聞かない様であれば最後は殴っても連れ戻すことを考え始めてます。

中国は世界制覇を狙ってます。ユーラシア大陸からヨーロッパ、アフリカにかけては一帯一路構想で着々と手を打っています。次に狙うは東に広がる太平洋の海路です。しかし目の前には反りの合わないアメリカの友好国である日本、台湾、フィリピンがあります。中国が自由に海路を航行し、太平洋を制覇するためにはこれらの国が邪魔です(これ、地図をじっくり眺めてみるとよく分かります)。日本やフィリピンは独立国なので手は出せませんが、台湾は自国なのでここから太平洋に出られます。言うことを聞かなければ殴って言うことを聞かせます。もう香港で実証済みです。

中国の台湾に対する状況は香港の時と似てますが、地政学的に見ると全く違います。香港はアメリカにとって純粋な人道的問題でした。民主主義に基づいて権力に対抗する人々を武力で鎮圧する。それは外から非難声明を出すことはあっても、同じ武力で対抗するところまではいきません。よほど裏に別の理由がない限り。しかし台湾の場合、中国がここを武力で制圧し自由にした場合、それは直ちに中国の太平洋進出を意味することになります。アメリカはそれは絶対避けたい。中国社会主義が太平洋を渡ってアメリカ大陸に押し寄せるのは脅威です。でも特に自国第一主義をとっている昨今、自力で阻止する気はないのでその役目を日本や台湾に負わせようとしています。そこでアメリカのことはすぐよく聞く一番弟子の日本を呼びつけて、武力衝突になったら必ずこっちに着くいて一緒に戦うんだぞ、東シナ海の防波堤になるんだぞ、という念書を取ったと言うわけです。

同時にアメリカは台湾にも非公式代表団を送って同じメッセージを伝えてます。アメリカとしてはこれで中国が万一武力行使して台湾を攻めてきても台湾、日本、アメリカで共闘するぞと確認したわけです。

さて、日本。アメリカ様に呼ばれた最初の国だ、などと喜んでいる場合ではありません。そもそも日本がアメリカの1番の友好国であるから呼ばれたんではなく、単に、東シナ海一帯の中国進出に対する防御を強固にするための駒として呼ばれたにすぎません。だから夕食会なんてはなから考えてなかったのかも。

随分前置きが長くなってしまいましたが、これからが本題。声明文を発表してしまった以上もう後戻りはできません。そう、ルビコン川を渡ってしまったのです。中国とアメリカ陣営に分かれた時に日本は明確にアメリカ陣営に入って中国と対峙します。万一、中国とアメリカの代理戦争が台湾で起こった場合、日本は自衛隊を派遣し屁理屈をつけて一緒に戦う(朝鮮戦争、ベトナム戦争の次は台湾戦争??)ことになります。そうじゃなくてもベトナム戦争の時と同じ沖縄から戦闘機が飛び立つのでしょうし、中国がその沖縄基地を攻めてくることもあるでしょう。これまではロシア(ソ連)だったので遠かったのですが、中国と沖縄なんて目と鼻の先です。

もともと日本は中立的な立場で外交することが得意な国です。中東で戦争が起こった時も平和憲法を根拠に軍隊を派遣しなかったし、他国が人権侵害等をしているときも行動は起こさずに単に遺憾の意を表明するに留めてます。アメリカとも中国とも仲良くしてきたし、台湾とも他の国とも概ね仲良くやってます。去年の4月にはアメリカの同盟国と言いながら習首席を国賓で呼ぶつもりでした。なので、もし中国とアメリカの衝突が台湾で表面化した場合、その中立的な立場から両者の調整役という重要な使命が回ってくる可能性が十分にありました。でも、この声明文でその可能性は消えました。

そんなに重要で重大な声明文なのに、国内で全く議論がなされていないのはなぜ?ここまで日本の立ち位置が大きく影響されるのに、あんなに軽々しくアメリカくんだりまで行っていきなり声明文を発表したのはなぜ?もし、今年の選挙を見据えて外交で支持率を上げておこうなどというケチな目算で言ったのなら言語道断です。

書いているうちにだんだん怒りが増してきてしまいました。失礼しました。ではまた次回。

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